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・ラスダンメンバーでほのぼののちシリアス
「三人の部屋・後編」 にもほんの少しリンク


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「セシルは白。前は黒だったけど」
「あー、前は暗黒騎士だったってな」
 仲間を色で喩え始めたリディアの相手をしているエッジの、彼女を見つめる目はやさしい。


「私は緑」
「まんまだな」
「何よお……」
 頬を膨らませ唇を尖らせる仕種は子どものそれと同じで、エッジは、可愛いな、と思いつつ複雑な気分にもなる。
「異議なし」
 エッジは微笑みながら両手を挙げて大きく頷いた。


「ローザは白とピンク」
「二つかよ」
「白魔道士の白と、女らしくてふわっとした感じがピンク。思わない?」
 思う思う、とエッジは何度も頷いた。


「カインはね、黒」
 え、とエッジだけでなく、二人のやりとりを微笑ましく見ていたセシルとローザも驚きの声を上げてリディアに視線を注いだ。
「カインは青じゃないか? 私服も青っぽいのが多いし、何よりあの眸。すごく青いだろ?」
 セシルに諭され、リディアは、うーん、と首を傾げる。
「金色じゃない? 髪の。羨ましいわ」
 カインのものより暗い色の自分の髪を一束摘み、顔の前で毛先を見つめながらローザはため息をついた。セシルは腕を伸ばし、彼女の髪を指にくるくると巻き付ける。
「君の髪の色、好きだよ」
「……ありがとう」
「おまえら、いちゃつくならあっちでやれ」
 見つめ合い微笑み合う二人に虫を追い払うような仕種をして、エッジは口笛を吹いて冷やかした。
 頬を染め、セシルと少し距離を取ったローザがリディアに訊ねる。
「どうしてカインが黒なの?」
 リディアが応える前に、エッジが横から口を挟む。
「腹の色だろ」
「あんなこと、言ってるぞ」
 エッジの戯れ言を、兄の悪戯を親に言いつける弟のように、セシルは、少し離れたところで槍の手入れをしていたカインに向かって声をかけた。もちろんそれは、彼が皆の輪の中に入ってこれるようにとのセシルなりの気遣いなのだろうが、そんな幼馴染のささやかな努力もむなしく、カインは他人事のようにぼそりと呟いた。
「当たってるからな」
「……」
 セシルはローザとエッジを振り返り、目を合わせて肩を竦めた。


「カイン」
 リディアがカインの傍に寄って屈み込み、彼の顔を覗き込んだ。
「私、そんなこと思ってないよ。エッジが勝手に――」
「わかってるよ」
 カインはリディアに微笑みかけ、豊かな緑の髪を撫でた。日頃愛想とは無縁のこの男も、リディアには甘くやさしい。
 リディアは安堵の笑顔をカインに向けたあと、エッジをじろりと睨み、ずんずんと足音を鳴らして向かって行く。
「エッジ!」
 自分に対して腹を立てるのはカインのはずだったのにリディアに怒られる羽目になり、エッジは彼女の怒りの矛先を変えようと、おろおろと言葉を探した。


「リ、リディア。俺は? 俺は何色だ?」
 彼女はぴたりと立ち止まりくるりと表情を変え、にっこりと笑った。
「エッジはね、紫!」
「これか」
 エッジはほっと息をついて、自分の藤色の襟巻を少し引っ張った。
「それだけじゃなくって、目の色も」
 急に至近距離まで詰め寄られ、眸を覗きこまれてうろたえる。
「紫の不思議な色よね。きれい」
 翠玉の眸、花の唇、桃の頬。きれいなのはおまえだぜ、と喉許まで出かかっていたけれど、言葉にすることはできなくてエッジは目を逸らし、小さな声で礼を言った。


「紫は高貴な色なのに、残念だな」
「てめー! 何が言いたいんだよ!」
 エッジは気色ばみながらも、やはりこいつはこうでなくては、と頭の隅で思った。まあまあ、とセシルが二人を取り成し、リディアが心配そうに気を揉み、ローザが泰然として構える。
 すっかりお馴染みになってしまった束の間の安寧に、エッジはほっと息を吐き微笑もうとしたが、すぐ険しい顔に戻った。


 楽しいと思ってはいけない。いつまでもこの五人で戦っていたいなど思ってはいけない。故郷の惨状を思い出せ。両親の最期を思い出せ……


 緩んでいた襟巻きを巻き直し、口許を隠し、ため息を飲み込む。


 悪の元凶を断ち、真の平和を取り戻したとき、リディア、俺はおまえを……


 そう言えばリディアの応えを聞いていなかったが、勘の鋭い彼女に真実を訊くことは少し怖い気がする。
 彼女がカインを黒と例えたことを誰も思い出さないようにうやむやにしてしまおうと、エッジはわざと大きな足音を立てて皆の気を引きながら、カインの許へ向かって行った。










10/10/21〜10/12/23
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