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32


・ ゴルカイ同棲ネタ
・パーティ@バロン城

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 可愛い可愛いと何度も頬擦りし赤ん坊を抱いて離さない リディアを見つめるエッジの顔はだらしなく緩み、同じく彼女を見つめるゴルベーザの顔は険しく歪んでいる。
 二人の対照的な表情を見てカインは小さな息を吐いた。
 誰もがしあわせな気持ちで微笑ましい二人を見ているときに、何をひとり、難しい顔をしているんだ。カインは横目でゴルベーザを睨んだ。
 視線に気づいたゴルベーザが、少し身を屈めカインの耳許で声を潜める。
「なっとらん」
「え?」
「あんな抱き方では危うい」
 そんなことを気にしていたのか。赤ん坊の安全を危惧するのなら、直接抱き方を指導してやればいいのに。とは言っても、彼がリディアに手 取り足取り抱き方を教えてやる絵面を想像すると自然と笑みがこみ上げてきて、カインは、無理だな、と心の中で呟いた。

 突然赤ん坊がリディアの腕の中から逃れようと身体を捩り始める。
「え? え? どうしたの、急に」
 リディアはセオドアを何度も抱き直し身体を揺すったが、赤ん坊は手足をばたつかせぐずり出した。
「ああ、どうしよう……」
 彼女はローザに助けを求め、セオドアを手渡そうとしたが、いつの間にか背後に寄っていたゴルベーザがローザよりも早く腕を差し出した。 赤ん坊は身を乗り出さんばかりに両腕を伸ばし伯父に抱っこをねだり、彼の片腕に納まると、ぴたりと泣きやんだ。
「すごーい」
 リディアはゴルベーザを見上げ感嘆の声を上げ、肩を竦めた。
「赤ちゃん、可愛いけど、泣いたらお手上げ」
「慣れよ」
 ローザがリディアを宥める。
「でかいから、安定がいいんだ」
 カインも口添えする。実際、彼の腕の中にすっぽりと納まった赤ん坊は、専用のゆりかごの中にいるかのように、居心地良さそうにしてい る。
「赤ん坊に好かれる何かがあるんだろ」
「何かって?」
「まも――」
 少し首を傾げ瞬きもせず緑の眸で見上げてきたリディアに、カインは「魔物の仔もよく懐いていた」と言いかけて、すんでのところで思いと どまった。我が子を魔物と一緒にされて、セシル夫妻が気を悪くしないはずがない。
「カイン?」
 黙ってしまったカインをリディアが訝る。
 どうやって彼女の気を逸らそうか。カインは少し考えたが、視界の端にこちらに聞き耳を立てているエッジの姿を見て妙案を思いつき、した り顔で笑みを浮かべた。
「リディアも欲しくなっただろ。赤ん坊」
「え? 私?」
 リディアは目を丸くして一段と高い声を上げた。
「お、おい!」
 つい今しがたまで共に談笑していたシドたちに無作法に背を向けて、エッジが血相を変えてこちらへ向かって来た。カインは堪えきれない笑 いを漏らしながら話を続けた。
「欲しくなったら、年上で身分の高い、どこかの王――うおっ」
「てめー!」
 エッジはカインの後ろから腕を回し首を羽交い絞めにして、そのままずるずるとリディアから引き離した。
「てめえ、余計なこと言うんじゃねえ!」
「わかった、わかったから離せ」

「あの二人、仲良いよね」
 リディアは、少年のようにじゃれあうエッジとカインを見つめながらゴルベーザを見上げて言った。
「あれは『陰』だから『陽』の彼とは惹かれ合うのだろう」
「イン?」
「簡単に言えば『暗い』と『明るい』だ」
「じゃあゴルベーザも『ヨウ』なのね」
 無邪気なリディアの言葉に、ゴルベーザはわずかに目を見開き首を傾げる。 
「……そんな風に言われたことはないのだが」
「だって、カイン、明るくなったもん。前はもっと……おとなしいというか……あんまり笑わなかったし」
 リディアは、ね、と物言わぬ赤ん坊に同意を求めるように、叔父の腕に抱かれ機嫌を直したセオドアの柔らかな頬を指で軽く突ついた。
「そうか……」

「そろそろ始まるよ」
 会食の開始を知らせるため、セシルが兄とリディアの許へ寄った。彼が自分の方に伸ばされた息子の小さな手を緩く握ってあやすと、赤ん坊 は天使のような笑みを浮かべ、それを見たリディアは、可愛い可愛い、と目を細める。
「リディアも欲しくなるだろ? 赤ん坊」
「え?  私?」
「お、おい! セシル!」
 カインを羽交い絞めにしながらも、リディアの声を聞き逃さないように耳をそばだてていたエッジが慌ててセシルに詰め寄った。
「てめえ、ちょっと来い!」
「な、何だよ、エッジ」

「忙しい奴……」
 カインは、自分を解放したのちセシルの腕をぐいと引っ張って離れて行くエッジの後姿に呟いた。
 エッジはいい男だ。軽口ばかり叩いているが、熱血漢で真っ直ぐでよく気が回り、自己犠牲の精神と献身も持ち合わせている。しかも国王と いう権力者、縁談も数多く持ち込まれているだろうが、そこから人生の伴侶を選ぶとは考え難い。

 いつの日かエッジの一途な想いに彼女が応えてくれればいいのだが。

 リディアと和やかに談笑している自分の伴侶の姿に満足して、その腕に抱かれた赤ん坊の頬を緩くつまんでやると、赤ん坊は屈託のない笑い 声を上げた。




おしまい





16/5/7〜16/7/17
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