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・ ゴルカイ同棲ネタ
・ローザとカインの会話
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「おまえ、肝が据わったなあ」
「そう? まあ、覚悟はできているわ」
「覚悟?」
「やさしくて格好よくて誠実で、頼もしかったり甘えん坊だったり。それにいまは権力の頂点でしょう。誘惑が多くてあたりまえよ」
「のろけか」
「彼にその気がなくても周りが放っておかないわ」
「あいつはおまえ以外、眼中に無いと思うけどな、ずっと」
「どうかしら」
「おいおい」
「信じてるもの」
「あいつを?」
「彼をいちばん愛しているのは私。彼にいちばん愛されているのは私って。あなたもそうでしょ?」
「…………」
「ちょっと、カイン! しっかりしてよ!」
「い、いや、俺はそんな風に考えたことがなかったから……」
「お義兄様、気が多い?」
「ん……どうだろう。よくわからない」
「いままでないの? 嫉妬したことも?」
「……ない」
「いま、間があったわ」
「深刻なものはないよ」
「そう言えるのは自信があるからよ」
「俺が?」
「心配することないじゃない」
「いや、そっちの心配をしているわけじゃあ……言いにくいんだが……あの二人……」
「セシルとお義兄様?」
「ああ。仲良すぎると思わないか……笑うなよ」
「ごめんなさい」
「政務もあるし子育てもあるのに『兄さん、兄さん』言い過ぎだろう」
「慣れれば落ち着くわよ。いつまでもあの調子じゃないと思うわ」
「おまえこそ落ち着いてるな」
「母だから」
「『父』は落ち着かないのか」
「おなかに宿しているときから『母』だけど、『父』は生まれてからでしょ」
「なるほど」


 でも、と言いかけてローザは言葉を切り、またくすくすと笑い出した。
「何だ」
「でも、仲良すぎて妬ける気持ちは、わかるわよ」
「え」
「だから、兄弟仲が良すぎるでしょ。あの二人」
「別に妬いてなんか――」
「本当に?」
「……そ、そうだな。仲良すぎて妬けるな。あいつの甘えっぷりも彼の甘やかしぶりも凄いぞ」
 できるだけ軽い調子で言いながら、ローザの顔を窺い見る。彼女は口許こそ笑みを湛えているけれど、目は笑っていなかった。

「私には、無理にはしゃいでいるようにも見えるのよ」
 彼女の洞察の深さに、カインは息を呑んだ。
「お義兄様に負い目があるのは間違いないでしょ。だから、セシルはそれを感じさせないように敢えて無邪気に振舞って、敵として戦ったこと さえ二人の記憶から消そうとしているんじゃないかしら」
「それを言われると、俺も……」
 違うの、とローザは片手を顔の前で何度も振った。
「ごめんなさい。私が言いたいのは、いつまでもあの調子じゃないだろう、ってこと」
 謝られるとよけいにつらくなる。カインは顔を背け小さな息を吐いた。
 兄に甘える無邪気なさまはさまざまな葛藤や懊悩を乗り越えた末のものだとしたら、そこに思い至らなかった自分は、長い間親友の何を見て きたのだろう。そ れだけ自分の恋路に頭がいっぱいでセシルを気遣えなかったことは事実で、その間傍で彼を支えたローザが言うことは推測ではなく紛れもない 事実だと、カイン は身に染みて理解した。
 ゴルベーザの甘やかしぶりも、弟の気持ちに応えたものなのかもしれない。

 でも、と言いかけてカインは言葉を切り、肩を竦めた。
「何」
「でも、呆れることも多いが、二人のしあわせそうな顔を見るのは、悪くない」
「あなたのそういうところ、好きよ」
 彼女の笑顔は慈愛の女神のようにやさしく美しい。カインは彼女と目を合わせ、ふっと唇の端に笑いを漏らした。







おしまい




16/5/7〜16/7/17
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