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30


・ラスダンメンバーで旅の途中
・カインが中二病っぽい


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 リディアが読んでいた本を通りすがりに背後から覗き見したカインは、見開きの一ページに描かれた挿絵に違和感を憶え、思わず立ち止まった。
 気配に気づいた彼女が後ろを仰ぎ見る。
「あ、カイン! ……どうしたの?」
 彼女は笑顔を向けたが、竜騎士のしかめ面に小首を傾げた。カインが挿絵を指差す。
「それ、おかしいだろう」
「え?」
 リディアは目をぱちくりとさせ、膝の上の本を引き寄せた。
「どこどこ?」
「それ、人魚だろ。そっちは貝だから、海の底だな。なんで雪が降ってるんだ」
 挿絵には、海の底に横たわり目を閉じた人魚と巻貝や珊瑚などが描かれた青い背景に白い雪が無数に降り注ぐ様子が描かれていた。

「え、降るじゃない、雪」
 カインの疑問にリディアが応えた。いやいや、とカインは首を横に振る。
「何で海の中で雪が降るんだ」
「降るよ」
「雪は雲が降らせるんだ。雲のない海の中で降るわけないだろう」
「え、降るよ。幻獣王さまから聞いたもん」
「……」
 海を統べる海竜の名を出されてはこれ以上抗弁するわけにもいかず、カインは押し黙った。幻獣王もやはりリディアを子どもだと思っているのか、いい加減な こと を言うのだな、と密かに嘆息する。

「おいおい、子ども相手にムキになってんじゃねーぞ」
 エッジがにやにやと口悪く近づいてきたので、カインは「ムキに」という言葉に眉をしかめ、リディアは「子ども」という言葉に頬を膨らませた。
 エッジがリディアの前で屈みこみ、本の表紙を覗き込む。
「おとぎ話なんだから理屈なんていいんだよ。見た目よければそれで良し、海に雪、上等じゃねえか」
「……」
「おとぎ話じゃなくて本当に降るの! 幻獣王さまが言ってたもん!」
「へえー、じいさん、ボケてんじゃねーのか」
「悪口、言っちゃだめでしょ!」

 こいつ、リディアに構って欲しくて割り込んできたな……
 エッジの魂胆を見抜き、二人きりにしてやろうと、カインは彼らと距離を取るため少し後ずさった。

「降るよ」
 突然、背後から声がしたので首だけで振り返る。
「セシル」
「もっとも、本物の雪じゃなくて、プランクトンの死骸や排出物が水中に漂っているのが雪みたいに見えるんだって」
 自分の無知を知り、そうか、とカインは少し顔を赤らめた。
「俺は海にあまり関心がないから知らなかった……」
 おまえは空だもんな、とセシルは微笑んでカインの肩に手を置いた。
「僕も、図書室で一度見ただけの知ったかぶりさ」
 セシルは少し肩をすくめ苦笑いを浮かべる。
「僕が見た絵も幻想的だったぞ」
「死骸やゴミが漂っていると思ったら、まったく幻想的じゃないけどな」
「リディアには黙っていよう。幻獣王がどう言ったか知らないが、本当の雪だと思ってるみたいだから」
 セシルはカインに片目を瞑り、視線をエッジとリディアに戻した。二人は相変わらずやりとりを続けている。

「だからね、これは死んじゃった人魚に雪が積もってるところ。可哀想でしょ」
「ああ、泣けるぜ」
「んもう、真面目に聞いてよ。でね、海の神様が人魚を雪で隠しちゃうの。死んだのを誰にも見られないように」
「リヴァイアサンがか」
「これは本の話! 幻獣王様とは違うの!」

 セシルは、でれでれと鼻の下を伸ばしているエッジを見て、やれやれ、と小さく笑い、食事当番のローザを手伝うためにカインの許を離れた。
 カインは、関心を惹くためわざとリディアをからかうエッジの年長者らしからぬ態度に「幾つなんだ」と呆れたように嘆息したが、その愛情の示し方に何故か 言い ようのないせつなさを感じて無意識に左胸を押さえた。


 リディアの話を聞きながらぼんやりと思い巡らす。
 いつかどこかで行き倒れ、野垂れ死にするなら雪の日がいい。欲した温もりと対極の冷たさの中、白い雪に紅い血の華を咲かせ、息絶えた骸(むくろ)に雪が 降り 積もりすべて覆い隠してくれればいい。
 そんな幻想に捉われる自分こそ幾つなんだ、とカインは自嘲の薄笑いを浮かべ、ひとりテントに戻った。








 おしまい





11/2/21〜16/5/6
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