拍手御礼

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24

「ゴルベーザ様を見なかったか」
 新参の竜騎士に声をかけられバルバリシアは立ち止まり、いいえ、と首を横に振った。
 そうか、と竜騎士カインは肩を落として小さなため息をつき、軽く握った拳を顎に当てて首を少し傾げる。
「部屋にいらっしゃらないし、午後は外出の予定も聞いていないんだが」
 用件を済ませてすぐさま立ち去るわけでなく、こちらが尋ねたわけでもないのに独り言のように呟く彼は、自分と言葉を交わすことが億劫でないらしく、答えた以上の応えを求めているようだ。

「あんたが知らないだけでしょ」
 バルバリシアは故意に邪険に応えた。兜を被っているのが惜しいが、取り澄ました男がむきになって顔を紅くするさまを見るのは楽しい。それが眉目秀麗の青年ともなれば尚更のことだ。

「予定の変更を逐一あんたに言わなきゃいけないわけ?」
 バルバリシアの意地の悪い試みに、カインは顔色も変えず、小さく嘆息した。
「……随分喧嘩腰だな」
「そうかしら」
「らしくない」
「何ですって」
 バルバリシアは血相を変えカインを鋭く睨んだ。
「あんたが私の何を知ってるって言うのよ!」
「そう怒るなよ。美人が台無しだぞ」
「……」
 からかうつもりがからかわれたと気づき、バルバリシアは冷静さを取り戻すためにひとつ大きな息をついた。珍しく、重い口を開いたかと思えば憎まれ口を利く。彼がただ美しいだけのおとなしい男ではないことがわかり、ますます興味をそそられる。

「美人じゃあ、あんたに敵わないわ」
「『美人』はやめろ」
 そっち、とバルバリシアは思わず噴き出しそうになるのを堪えた。容貌を褒めそやす言葉は聞き飽きているのだろうが、女のように扱われることは気に食わないようだ。
「何が可笑しい」
 カインの声に苛立ちが混じる。バルバリシアにはそれが楽しい。
「『美人』なんて言われ慣れてるでしょ」
「……だから鬱陶しい」
 今度は堪えきれず、バルバリシアは高い声を上げて笑った。


「楽しそうだな」
「ゴルベーザ様!」
 突然の主の登場に、二人は横に並んで姿勢を正し、頭を深く下げた。バルバリシアが先に顔を上げ、主に艶然と応える。
「彼があまりに美しいので褒め称えていたところですわ」
 カインの口許が歪むのを横目で見て、バルバリシアは小気味よさそうに笑みを湛えた。カインは主に顔を向け、何か言おうと口を小さく開けたまま、顔を上げたり俯いたりを繰り返したが、結局言葉は出て来ず、視線を床に落とした。
 主の前ではしおらしいこと。
 バルバリシアは密かにほくそ笑み、畏まるだけでなく、背筋を伸ばして胸を張り、臣下として一日の長があると言わんばかりに、堂々とした態度を見せつけた。

 ゴルベーザがすっと長い腕を伸ばしてバルバリシアの腰に回し、低く穏かに響く声で耳許に囁く。
「おまえも充分美しい。だから、そう、からかってやるな」
 ぽん、とバルバリシアの腰を軽く叩き、黒いマントを翻したゴルベーザは、カインに顎をしゃくり踵を返した。
 カインはちらりとバルバリシアを振り返り、唇の片端をわずかに上げ、またふいと背中を向け主の後を小走りに追った。
 主にろくに返事もできず、ひとり残されたバルバリシアは呆然と立ち尽くした。


 適当にあしらわれたとは思わない。世辞を言われたとも思えない。言葉どおり受け取り素直によろこぶほど単純でもない。それなのに、主の気まぐれな振る舞いに心を揺さぶられその従の傲慢な微笑に支配欲を掻き立てられ、昂奮で身体が熱くなる。
 ふう、と息を吐き、小さくなっていく二人の後姿を見送る。
 ゴルベーザの関心の多くが彼に移ってしまったことが口惜しくもあるが、主が彼と関わりを深くすることで、これまで決して見せなかった人間らしさが垣間見られるのではないかと思えば、バルバリシアの頬も自然と緩んだ。







10/08/21〜10/10/20
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