拍手御礼

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23

「はい」
「何だ」
「ほら、ここ。糸が」
「ああ。直しておいてくれ」
「俺はできないから、はい。できるだろ? 器用なんだし」
「……私もやったことはない」
「あ……うちには針も糸もなかった。じゃあ、今度城に行ったときローザに教えてもらっ――」
「断る」
「じゃあ、女官に――」
「さらに断る」
「じゃあ、どうするんだよ」
「捨てればいい」
「もったいないだろ。こんなちょっとのことで」
「仕立て屋に出せばいい」
「魔法でできない?」
「無理だ」
「黒魔法って、火をおこす以外生活に使えないよな」
「おまえは魔法を何だと思っているのだ」
「取りあえず、ピンで留めておこうか」
「少しのことなら構わん。貸せ」
「あ、みっともないって」
「マントを纏えばわからん。行ってくるぞ」
「あー、ちょっと! 他のを着ろよ!」



「あら、お義兄様。じっとして……裾がほつれていますわ」
「……あ、ああ」
「少しお待ちください。針と糸を用意しますから。脱いでくださいます?」
「い、いや。構わん」
「そうおっしゃらずに、さあ」
「兄さん、遠慮しないで」
「そうか……では、頼む」
「すぐ済みますわ」


「どうしたの、兄さん。裁縫、珍しい?」
「……」
「最後は、糸を針に数回巻きつけて親指でしっかり押さえて……」
「え? 何、ローザ?」
「……なるほど」
「え?」
「はい、できました。一式用意させますからお持ち帰りくださいね」
「何から何まですまんな」
「え? 何を一式って?」



「何、それ。また甘い物?」
「セシルの妻にもらった」
「裁縫道具! あ、直ってる。してもらったんだ」
「意外に簡単そうだった。あれなら容易い」
「やっぱりな。まあ、これからはボタン付けとかも頼むよ」
「任せておけ」
「こっちの大きい袋は? え……生地?」
「いい色だろう。これも変わっているぞ。その柄は――」
「……どうするんだよ、こんな大量に」
「私とおまえの服を作る」
「ええ! 一足飛びに、服! 自己過信にもほどがある」
「おまえに着せたいものがあるのだ」
「どうせ切込みが入ってたり透けてたりするんだろ」
「……」
「図星か!」







10/06/21〜10/08/20
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