拍手御礼

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14

「帰ったぞ」
「おかえり。生まれたって。さっき使者が来た。待望の男の子」
「ああ、寄って来た」
「え、もう?」
「バロンに寄ったら、産気づいたといって大騒ぎだったのでセシルに付いてやっていた。心配だからな 」
「……心配するのはローザにだろ」
「かわいそうに、不安と緊張のあまり震えていたので、ずっと手を握ってやっていた」
「だから、セシルがローザの手を握ってやるのが普通だって!」
「出産は女の仕事だから出て行け、と産婆に追い出されたのだ。古臭い考えだな、あそこは」
「あ、そうなのか。まあ、古臭いけど仕方ないな」
「せっかくおまえのときの予行演習になると思ったのだが」
「え? 中に居たってことか」
「身内だというのに、狭量な婆さんだ」
「……あ、当たり前だろ! 追い出されて当然だ!」




「で、赤ん坊は? ローザは無事?」
「安産だったようだ。赤ん坊は五体満足、眸は青で髪は銀、遺伝子の勝利だ」
「勝ち負けじゃないって……まあ、無事でよかった」
「セシルに良く似ている。美しくなるぞ、あれは」
「伯父バカ……で、やっぱりあの名まえ?」
「そうだ。『セオドア』」
「ブラコン極まれりだよな」
「但し、Ceodoreと綴るそうだ」
「へえ……(ローザの無言の抵抗じゃないのか)」




「抱かせてもらった?」
「ああ。小さく柔らかく、血の繋がりがあると思うと、胸の底から湧き出るような愛しさがこみ上げて くると同時に、こんな愛しいものを、可愛いセシルを、私は……」
「(あ、まずい。自虐モード突入)あ、あのさ、祝いは何がいいかな。あいつ、何か言ってなかった? 」
「いくら操られていたとはいえ……」
「お、甥っ子でそんなに可愛いなら、自分の子どもはもっと可愛いと思うよ! た、楽しみだな!」
「……そうだな」
「そう、そう! 赤ん坊を抱くたび自己嫌悪していたら父親なんてやってられないだろ」
「おまえが正しい」
「あのさ、いまカード書いていたんだ。とりあえず花と一緒に贈るから、ここに何か描いて」
「ほう、洒落ているじゃないか――これでどうだ」
「か、可愛い……すごいな、こんな風にも描けるんだ……」






「兄さん! カイン!」
「おめでとう。ローザは? 会えるか」
「ありがとう。元気だよ。さあ、入ってくれ」

「カイン! 来てくれたの!」
「おめでとう。これ」
「ありがとう。いい香り。あら、可愛い!」
「兄さんが描いたんだって」
「すごい……お上手ね。この子も似ればいいわね」
「……小さい……俺、こんな小さい赤ん坊見るの、初めてだ」
「昨日まで腹の中にいたのだからな」
「似てるな、セシルに。ローザにも似てる気がするが」
「顔と頭が僕に似て、剣捌きも似て、兄さんに似て背が高くなって絵も巧くて魔法も得意で――」
「さらに、気性が母親に似たら最強の王子だな」
「……(微妙な褒め方するなよ)ローザに似たら芯が強くてやさしい子になるさ」
「親の良いところばかり似ればいいけどね。そんな巧くいくかしら」
「可愛いな」
「抱いてみる?」
「い、いや、いい。小さくて壊れそうだ」
「大丈夫だ。慣れておけ」
「そうだよ。僕も最初はおっかなびっくりだったけど、大丈夫だ。ほら、そっと……」
「ち、ちょっと待て! そ、そっと! ……何だ、軽いな」
「可愛いだろう」
「ああ」
「可愛いだろう」
「『ああ』って!(伯父バカ!)」
「やっぱり、セシルの赤ちゃんの頃に似てます?」
「……」
「セシル! 代わってくれ。俺達、昼まだだから食ってくるよ」
「……ああ。いってらっしゃい」




「いちいちへこむなって!」
「……実を言うと、あまり憶えていないのだ」
「子どもだったから仕方ない」
「いや、憎しみに囚われていたからだ。両親が死に、たった一人の――」
「わかってる。帰ったら聞くから。何度でも聞くから、いまは忘れて、笑顔で。めでたいんだから」
「兄さん! どうしたの」
「セシル!」
「わ、何!」
「こんなところでやめろよ。兄弟で暑苦しい……」
「すまなかった、セシル。いくら操られていたとはいえ可愛いおまえを――」
「え、またその話? それはもういいって。カイン、おまえが蒸し返したのか」
「……(俺がとばっちりか!)」
「兄さん、気にしないで。だって、兄さんがカインと出会えたのも、僕を捨てたからじゃないか!」
「なるほど。そう考えれば悪くないな」
「……(えええ! そんなフォローでいいのか!)」









09/04/21〜09/06/20
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