拍手御礼

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「セシルとカイン」の番外編





「……よくからかわれたよ。俺にはやさしかった」
「冗談好きなんだ」
「どこまで本気でどこから冗談かよくわからないんだ。ずっと表情がわからなかったからな」
「いつ脱いだんだ」
「……戻ったあと。たまたま、な」
「どう思った」
「驚いた。似てると思ったよ、おまえに。不思議だった。醜かったらどうしようと思っていたこともあったから、うれしかった……かな」
「他は」
「すごい書斎があって、博識だった。薬を調合したり、アイテムをいくつか分解して魔法をかけて、新しいアイテムを作ったりしていた。ほとんど役に立たないような」
「何やってるんだ……」
「笑いを堪えるのに必死だった、俺」
「例えば、どんな」
「『蜘蛛の糸』と『エルメスの靴』を合成したり」
「……意味ない、それ」
「だろ?」
「……僕も、いま、笑いを堪えてるんだけど」
「な。ちょっと変だろ」
「『ちょっと』じゃないよ。他には」
「チェスもよくした。全然勝てなかったけど、一回だけ勝てた。動物……いや、魔物……」
「ん?」
「猫に似た魔物の赤ん坊がすごく懐いていた。扱いも巧かったが。二匹とも拾ってきたやつで」
「ケットシー?」
「クアール。世話をさせられたんだぜ、俺が。猫の世話さえしたことなかったのに」
「可愛いじゃないか、猫」
「猫ならな。すぐに俺よりでかくなって、叱るのも命がけだった」
「他には」
「絵がすごく巧かった。さらさらとあっという間に」
「へえ。誰の血だろう。僕は全然なのに……」
「俺の描いた絵、爆笑された。あんなに笑ったのはあれが初めてだったと思う」
「『俺の』って、描いたのか、おまえが……」
「仕方ないだろ。『描いてみろ』って言われたんだから。あ、おまえ、笑ってるな!」
「すまん、すまん。で、何を描いたんだ」
「そのクアールの仔どもの。『審美眼を疑わざるを得ない』まで言われた。笑うなって!」
「見たかったな、どっちも」
「俺は二度と描かん」
「食べ物は? 何が好物だった?」
「さあ……食卓を共にしたことがなかったからな。兜、脱がなかったし」
「ほら、こんなに上背が違っちゃっただろ。何食べたらあんなに伸びるのかな、と思って」
「もう手遅れだろ」
「僕じゃない。セオドアに」
「ああ。でも、美食家ってことはないと思う」
「……あ、そうか。関係ないのか、栄養って。でも遺伝というなら納得できない」
「膨れるなよ」
「だって不公平だろ。同じ血を分けたはずなのに、絵が巧かったり、長身だったり」
「おまえのほうが優れていることだってあるだろう」
「例えば?」
「……すまん、すぐ思いつかない。痛いって」
「無いんだろ」
「あったあった。純粋でお人好し、頑固」
「……褒めてない」
「比べる必要なんてないだろ」
「うん……まあ……」
「おまえはおまえ、彼は彼。あ、どっちも――」
「どっちも?」
「……」
「あ、わかった。彼もそうなんだ……父さんの血かな」
「おまえ、自覚、あったのか……」









09/02/21〜09/04/20
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