おにいさんのけいこは厳しくて、僕は何度も「もうやめたい」と言いそうになったけど我慢した。母上と約束したからだ。
初めておにいさんと会った日の父上とのけいこは、いつもより厳しくてむずかしかった。
「そんなのできないよ!」
僕は剣を放り出して、床に座り込んだ。いつもなら父上は「休憩するか」と言ってくれるのに、その日は違った。
「そんなことではカインとの稽古は無理だぞ」
僕は、え、と父上の顔を見上げた。
「カインはもっと厳しいだろうね。それに、おまえがそんな甘ったれたことを言う子だと彼に知れたら、父上が恥ずかしい」
父上がどうして恥ずかしいのかわからなかったので、僕は「なんで」と尋ねた。
「教え甲斐のない奴だと、もう相手をしてくれないかもしれないぞ」
そんなの嫌だ。おにいさんはかっこよくてきれいでやさしかった。おにいさんともっと一緒にいたい。
僕は剣を握って立ち上がった。父上もうれしそうに、さあ来い、と剣を構えた。
冷たいジュースを飲みながら、僕は母上に、父上が言ったことの意味を訊いた。
「それはね、父上とおにいさんはライバルだから、負けたくないのよ」
母上は、いつもはやさしいのにね、とにこにこと笑いながら言った。
「らいばる?」
「競争相手よ。どちらも同じくらいの力を持った」
「ともだちなのに?」
「友達だから。もしあなたが稽古の途中で『やめたい』とか『痛い』『嫌だ』なんて言ったりしたら、おにいさんは『セシルの息子もたいしたことないな』と思うかもしれないでしょ」
「言わないよ! そんなこと!」
「そうね。父上のためにも『言わない』って約束してね。あなたならできるわ。がんばって」
僕は母上と指切りをした。
その夜は、おにいさんとのけいこのことを考えると、わくわくしたりどきどき心配になったりで、なかなか眠れなかった。
「あ!」
おにいさんに剣を弾かれて、僕は右手を押さえて座り込んだ。手がじんじんする。こんなこと初めてだ。
「なんだ、もう降参か」
「……」
大丈夫か、って言ってくれない。様子を見にそばに来てもくれない。もう嫌だと泣きそうになったけれど、母上の言葉を思い出し、僕は剣を拾って立ち上がり、おにいさんをきっと睨んで構えた。
よし、とおにいさんは笑った。じっと僕の目を見てにっこりしている。僕ががんばれば、おにいさんは笑ってくれるんだ。おにいさんにもっと笑ってほしい。もっとほめてほしい。
剣を両手でぎゅっと握ると、じんじんもなくなってきた。
「おねがいします!」
僕は大きな声を出して、かっこよく構えるおにいさんに打ち込んでいった。
08/08/21〜08/10/20