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05

 四天王のうちの二人、カイナッツォとスカルミリョーネが仲違いしているらしい。噂を漏れ聞いたゴルベーザに、様子を見に行ってくれ、と頼まれ、カインは渋々彼らの部屋に向かっていた。


 いつも二人にからかいの種にされているカインにしてみれば、彼らが仲違いをしようが何をしようが関心の無いことだったが、統率者として、仲間内で余計な不穏を抱えたくない主の気持ちも理解できる。こんなとき頼りになるはずのルビカンテはバブイルの塔に戻ってしまったし、バルバリシアは、放っておきなさい、とカインに輪をかけて無関心を装っていたので、主も彼女のことは端から充てにしていなかったようだ。結局のところ、それはカインの役目になって、こうして気の進まないまま、わざとゆっくりと廊下を歩いていた。


「おい、スカルミリョーネ」
 なおざりなノックの後、カインはスカルミリョーネの部屋のドアを開けた。
「おお、カインちゃん、珍しいじゃないか」
 カインはスカルミリョーネをぎろりと睨んだ。
「なあ、聞いてくれよ。カイナッツォの奴、ひでーんだぜ」
 スカルミリョーネはカインの腕を掴んでぐいぐいと引っ張った。
「触るなって! それを聞きにきたんだから、さっさと言え」
「あいつが俺に野暮用を頼むもんだから、俺もついでだったし、快く引き受けたんだよ。それを済ませて戻ってきたら、あいつなんて言ったと思う?」
「尋ねてるのは俺だ。さっさと言え」
「『遅いぞ! 何いつまでちんたらやってんだ!』だとさ。どうよ、この言い種!」
「それが原因か? 俺、帰っていいか」
「てめえが頼んだ用で遅くなったのに、そんな言い方ねえだろ」
「ああ、もう、触るな、揺するな!」
「俺、あいつがちゃんと謝るまで、口利かねえことにした」
 カインは、どうぞご勝手に、と口を突いて出そうになったのをぐっと押しとどめた。
「とにかく、ゴルベーザ様は心配しておられる。おまえも適当に折り合えよ」


 やっぱりくだらない。何で俺がこんなことを。
 カインはぶつぶつ言いながらカイナッツォの部屋に向かった。


「おい、カイナッツォ」
「おお、カインちゃん。おまえが俺を訪ねてくるなんて、やっとその気になってくれたのか」
 カイナッツォは馴れ馴れしくカインの肩に腕を回したが、今度はすべて無視することにした。
「スカルミリョーネと仲違いしているそうだが、ゴルベーザ四天王たるものそんなことでは困る」
「『渋々言わされてる感』丸出しじゃねえか。愛想のねえこと」
「早急に解決し、ゴルベーザ様に余計な心配をかけないように」
「んあ? そんな大そうなことじゃねーよ。あいつにちょっとした用事を頼んだんだよ。ちょっとだぞ。ちょっと。なのに待てど暮らせど帰ってこねえ。心配するだろ? ふつう」
「で?」
「遅くなるならなるで連絡くれりゃあ、問題ねえんだよ。なのに、それもねえから、つい怒鳴っちまったんだな」
「怒鳴らず、静かに言えばよかったんじゃないか」
「そりゃそうだけどよー、『つい』だよ。『つい』」
「悪かったと思ってるなら、さっさと謝ってとっとと終らせろよ」
「それがなー、照れるっつーか……カインちゃん、ついてきてよー」
「はあ? なんで俺が。勝手にしろ」


 はあ、とカインは大きなため息をついた。くだらない。本当にくだらない。ほとんど解決しているじゃないか。女の勘か、バルバリシアはわかっていたんだな。ゴルベーザ様が心配し過ぎなんだ。


「ただいま戻りました」
「遅い!」
「……ですか?」
「塔内の二人の部屋へ行くだけでどれだけかかっているのだ!」
「はあ……申し訳ありません」
 遅いか? 何時までに戻って来い、と言われたわけでもなかったが。予想外の主の剣幕に、カインは内心首を傾げながらも素直に詫びた。
「あいつら二人はいつもおまえにちょっかいをかけていると聞く。忌むべきことがないように手早く用を済ませるのは当たり前だ」
「はあ……」
 だったら俺に行かせるなよ。心の中で呟いても、もちろん口には出さない。
「おいで」
 カインはゴルベーザの傍らに寄った。ゴルベーザは片手でカインの腰を抱き寄せ、もう片方の手でカインの両頬を挟んでぎゅっと押し込んだ。
「不服そうだな」
 口には出さなくても顔に出ていたらしい。頬が潰れたせいで蛸のように前に突き出た上下の唇では返事をすることもできない。カインは首を横に振りながら、答えた。
「ひひへ」
 ゴルベーザは、はは、と声をあげて笑った。頬を押さえる指の力に強弱をつけながら、何が不満だ、と楽しそうに尋ねてくる。
 先ほどの剣幕はどこへやら、機嫌を直した主に気づかれぬよう小さなため息をついて、カインは、いまならスカルミリョーネの気持ちがわかるなあと、さして不満にも思っていないことを、主のために、ハ行のみで語り始めた。









08/06/23〜08/08/20
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