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コネタ・空気を読めない弟シリーズ
ブログで「空気を読めない弟シリーズ」として不定期連載していたコネタ。
1 セシルとゴルカイ 09/5/13
「で、いつなんだ? 腹、大きくなってないな」
「だから、まだだ」
「戻ったぞ」
「兄さん! おかえりなさい!」
「セシル、来ていたのか」
「兄さん、子どもいつできるの? カイン、機嫌が悪くて教えてくれないんだ」
「どうした。今日はいつもより早いだろう、ん?」
「それで拗ねてたのか! 寂しがりだなあ」
「そ、そんなわけないだろ! 誤解されるようなこと言うなよ」
「で、子どもだが、準備は既に整っているのに、なかなか踏ん切りがつかんようだ」
「ふうん。どうしたんだ、怖いのか」
「おまえなあ……自分の身体が変わるんだぞ。不安じゃないほうがどうかしてる」
「僕が手を握っていてあげようか」
「セシル、それは私の役目だ」
「じゃあ、兄さんは左手、僕は右手を」
「あのな、おまえ。そういう問題じゃない」
「どういう問題なんだよ」
「おまえはセオドアのおむつでも代えていなさい」
「なんだよ、僕だけ仲間はずれ?」
「……わかるように言ってやって」
「セシル。カインには私がついているから大丈夫だ。おまえには他に頼みたいことがある。おまえしかできないことだ」
「僕にしか……何でも言ってよ、兄さん!」
「財務担当が何か言ってきても、決して取り合わないように」
「それだけ? それでいいの?」
「それで私もカインも非常に助かる。それでも言ってきたら『勅命だ』とでも言ってやれ」
「わかった! 任せて!」
「……(悪っ!)」
2 セシルとゴルカイ 09/5/16
「それにしてもすごい技術だな。男が子ども産めるなんて」
「おまえも産みたかったら産めるぞ」
「え! あ、そうか。理屈ではそうだね」
「……ローザがいるのに必要ないだろ」
「まあね。兄さんの子なら産んでみたいけど」
「……」
「……」
「じょ、冗談だよ! 真に受けるなよ。や、嫌だなあ、はははは」
「……まあ、兄弟間なら人工受精という手もあるが……冗談だ。そう睨むな」
「二人とも頭おかしいだろっ!」
「もしかしたら月の民の血が色濃く出た、すばらしい子どもができ……じょ、冗談だ。い、痛い」
「カイン、落ち着け! 僕が悪かった!」
「……わかった。俺、いまから行く。バブイルの塔に行ってくる!」
「カ、カイン。落ち着け。他愛のない冗談だ。それにこんな時間だ。彼ももう休んでいる」
「……」
「機嫌を直せ。明朝連絡してから行こう。な」
「カイン、イライラしたらだめだ。イライラがいちばん母体に悪いんだ」
「誰が母体だっ! 兄弟で勝手に乳繰り合ってろ!」
「あーあ。怒っちゃった」
「心配ない。根は単純だ。直にけろっとするだろう。むしろさせる自信はある」
「それってアレのことだよね。僕、帰ったほうがいいね。じゃ、また!」
「だいぶん空気を読めるようになったな……」
3 セシルとゴルカイ 09/5/19
「兄さん! 具合が悪いんだって! 大丈夫?」
「誰に聞いたんだ」
「大丈夫なのかって訊いてるんだよ!」
「風邪だから寝てたら治る。心配するな」
「そうか……よかった。で、兄さんは?」
「寝てる。風邪ひいたぐらいでいちいち来るなよ」
「だって心配じゃないか。薬は? 飲んだ?」
「ん……嫌がるんだよな……だから長引いてるというか」
「え! た、たいへんだ!」
「落ち着けよ。ハイポーションなら飲んでるから」
「でも、ちゃんと風邪薬を飲んだほうが治りが早いのに。僕、看てくる!」
「おい! だから寝てるって! 無駄なんだけどな……」
「セシル」
「起きてたの? 大丈夫?」
「ああ、だいぶいい」
「風邪薬、ちゃんと飲まないとだめだよ」
「……心配ない。もう治る」
「だめだよ。これだね。はい、大人二包」
「……いや、本当に、いい」
「兄さん! 早く良くなってほしいから、ちゃんと飲んで!」
「……要らん」
「兄さん、我がまま言うなよ!」
「セシル、無駄だって」
「カイン! 無理矢理にでも飲ませないと!」
「俺もやってみた。でも、無駄というか『無理』なんだ」
「どういうことだ」
「こいつに言っていい?」
「……」
「兄さん……顔、紅くなった」
「飲めないんだって。粉薬」
「え?」
「……」
「包むやつがないと飲めないらしい」
「包むやつって何だ……あ、オブラート!? えええ!」
「……笑うな、おまえたち」
「な、笑うだろ。いい歳して」
「に、兄さん、子どもみたいだ!」
「セシル、あんまり笑うと拗ねるから、ほどほどに、な」
「うるさいぞ。寝れんから二人とも出て行け」
「僕、オブラート買って来るから、そんな拗ねないで」
「拗ねとらん」
「兄さんってかわいいところあるんだね」
「……」
「他にもかわいいところ教えてやるから、あっち行こう」
「カイン、余計なことを言わんでいい」
「兄さんはゆっくり寝てて。じゃ!」
4 セシルとゴルカイ 09/6/22
「兄さん、教えて欲しいことがあるんだ」
「また来た」
「ん? 今日はえらく神妙だな」
「僕の本当の誕生日、わかる?」
「……」
「いまの日でいいだろ。ずっとそうだったんだから」
「正確な日が知りたいんだよ!」
「……」
「兄さん、何で黙ってるの? もしかして……」
「すまん、わからない」
「え、そんなあ! ちょっとでも憶えてない?」
「……」
「無理言うなよ。子どもだったんだから」
「ちょっと期待してたんだけど……」
「……すまん、セシル」
「おまえ、ちょっと来い」
「あまり責めるなって」
「責めてないけど、やっぱりがっかりだ……」
「どうしたんだよ、急に。捨て、拾われたのが生まれて間もないころなんだ。ひと月も誤差はないだろ」
「ひと月違うと星座も違うじゃないか!」
「はあ?」
「ローザとの相性もおまえとの相性も、もし星座が違ったら、全部見直さないと!」
「俺との相性は要らん。じゃなくて、本当の誕生日がわかったとして、もし相性が悪かったらどうするんだ」
「……そこまで考えてなかった」
「おまえなあ、つまらんことで騒いで、傷つけて――」
「つまらなくないだろ! な、なんでおまえが怒るんだよ」
「カイン、もういい。私が悪いのだ。すまん、セシル」
「兄さん。僕、そんなつもりじゃあ……顔、上げて」
「おまえには申し訳のないことばかりだ」
「僕が勝手に期待していただけだから」
「ところで、占星術など気にすることはないぞ」
「え」
「それでいうと私とカインの相性は最悪だが、このとおりだ」
「え、そうなんだ! 何だ、当てにならないな! 気にして損した。落ち込ませてごめんね、兄さん!」
「……(これで一児の父)」
5 セシルとゴルカイ 09/7/10
「兄さん……」
「また嫌な予感」
「どうした」
「僕の本当の名字、教えて」
「……」
「長年親しんできた『ハーヴィ』でいいだろ」
「本当のことが知りたいんだ」
「……」
「兄さん? まさか憶えてないことないよね」
「いや、月の民に姓は無いはずだ」
「え、無しが正解? そういう場合って妻方の名字を名乗ったりしない?」
「わからん」
「えええー」
「無理言うなって。子どもにそんな事情わかるわけないだろ」
「ということは、兄さん、名字が無いんだ」
「ああ。不都合を感じたことはないぞ」
「じゃあ、これからは僕のを名乗ればいいよ。セオドール・ハーヴィ、かっこいい」
「いや、名乗るならハイウィンドだな」
「え、婿入り? セオドール・ハイウィンド。語呂が悪いよ。ハーヴィにしなよ」
「うーむ……おまえはどっちがいいと思う?」
「好きにしたら。婿じゃないけどな」
「カイン! もっと真剣に考えろよ!」
「不都合無かったんだから、いままでどおりでいいだろ。熱くなるな」
「おまえが冷め過ぎなんだ!」
「落ち着け、セシル。カイン、おまえも大人げないぞ」
「こいつも充分大人だろ。しかも国王、一児の父」
「兄さーん! あんな言い方って!」
「よしよし。では、私がハーヴィを名乗り、生まれる子にはハイウィンドを名乗らせよう」
「でも兄さん、親子で名字が違うのって……」
「どうだ?」
「はいはい、好きにすれば」
「カイン! 真面目に!」
「朝までやってろ。おやすみ!」
「兄さん、カインに甘いよ」
「そ、そうか」
「兄さんが自分にゾッコンだからって、安心しきって天狗になってるんだ」
「天狗か……?」
「とにかく、もっと危機感もたせたほうがいいよ。夫婦は山あり谷あり、苦難を超えて絆を深めるものなんだ」
「なるほど」
「ときにはビシっとね。じゃ、帰るね!」
「成長したな、セシル……(じーん)」
「……(感動するところか?)」<立ち聞き>
6 セシルとゴルカイ 09/7/15
「カイン……」
「どうした」
「兄さんとケンカした。しばらく口利きたくない」
「おまえなあ、そのケンカ相手の家に来てどうするんだ。仲直りか」
「口利かない、って言ったろ」
「……まあ何でもいいけど、そろそろ帰ってくるぞ。顔、合わせてもいいのか」
「なんでケンカしたのか訊けよ! 気になるだろ?」
「別に。聞いたって、俺、おまえの味方しないし」
「なんで! 親友だろ!」
「おまえにはローザがいるだろ。俺までおまえに付いたら、彼はひとりになっちまう」
「そんなの自業自得だ!」
「あああ、うるさい。早く帰ってローザに慰めてもらえ」
「なあ、カイン、聞いてくれよ。兄さん、ひどいんだ。なあ」
「うるさいなあ。わかった、言うだけ言ったら帰れよ」
「お互いの家のことを話してたんだ。そうしたら兄さん『おまえの妻はカインの足許にも及ばない』って言うもんだから、僕も昂奮して『ローザの胸が柔らかくてプルプルなの知らないくせに!』って言っちゃって。そうしたら兄さん『一児の父でマザコンか』って言うんだ。よりによって僕がマザコンってどういうことだ! 母さんの顔も知らないのに!」
「……もういい。おまえ、もう帰れ。いや、俺の貴重な時間を返せ」
「何だよ!」
「そんな気はしてたんだ。ばかばかしい……」
「ばかって言うな!」
「早く帰って、その胸でも吸ってろ」
「おまえまで兄さんみたいなこと言って!」
「そ、そりゃあ、一緒にいるんだから似てくるだろ」
「へー、一心同体だってのろけか」
「ばか。そんなこと言ってないだろ」
「また言った! 侮辱罪で投獄してやるー!」
「バカ野郎! おまえが言うと冗談にならないだろ!」
「また!」
「戻ったぞ」
「兄さん! カインの奴、ひどいんだ!」
「どうした。ケンカか」
「僕のこと何度もバカって言うんだ」
「大人げないぞ、カイン。仲良くしろ」
「……(仲直りできてよかった……のか!?)」
7 セシルとゴルカイ 09/8/4
「兄さん!」
「おまえ、いつもいつも、時間考えて来いよ」
「何だ、まだか。はい、おみやげ」
「ありが……何だこれ」
「ビックスに久々に会ったら『夫婦円満に使え』って、くれたんだ」
「へえ。元気だったか」
「ああ、相変わらずだった。で、何かわからないし、ローザも『要らない』って言うから、持ってきた」
「……セオドアのおもちゃじゃないのか」
「僕もそう思ってセオドアに渡してみたけど、遊んでたのは最初だけで、すぐ飽きて見向きもしないんだ」
「確かに、おもしろそうなものじゃないな」
「『夫婦円満』って言ってたから、兄さんに使ってもらおうと思って」
「……くれた奴に訊けよ、使い方。あ、わかった。マッサージだ」
「え?」
「この紐の端のリングに指をかけて、玉が背中のツボに当るように斜めにこうやって……お、気持ちいいぞ」
「身体の柔らかいおまえでも、短くてやりにくそうだ」
「ああ。紐が片方にしか付いていないしな。両方に付いていたら持ちやすいのに」
「あ、『夫婦』だから、相手にやってあげるんじゃないか」
「おまえ、背中向けてみろ。どうだ」
「うん。あ、ちょっと気持ちいいけど……」
「うーん、紐が片方だけの理由にはならないな。それに、玉がこんな数珠繋ぎになってる理由もわからん」
「玉の数は何か関係あるのかな」
「やっぱりビックスに訊けよ」
「戻ったぞ」
「おかえりなさい!」
「……何をやっているのだ」
「友だちにもらったんだけど使い方がわからなくて、カインと一緒に考えていたんだ」
「マッサージじゃないかって言ってたんだけど、使いづらいし、違うかもしれない」
「……彼女に使うのか。おまえが使うのか」
「わかるの?! ローザが『要らない』って言うから、兄さんにあげようと思って持ってきたんだ」
「……そうか。では、ありがたくもらっておく。カイン、それをきれいに洗っておいで」
「で、何なんだよ、これ」
「兄さん、知ってるなら教えて!」
「今夜使ってみて、明日感想とともに教えてやろう」
「明日? ま、いいや。絶対だよ!」
「……(すごく嫌な予感がする!)」
8 セシルとゴルカイ 10/6/24
「なあ、カイン」
「ん?」
「おまえ、兄さんのこと何て呼んでるんだ?」
「……何だ、いまさら」
「聞いたことないな、と思ったんだよ」
「普通だ、普通」
「普通? だから何だよ」
「名まえを普通に、だ。どうでもいいだろ、そんなこと」
「顔、赤いぞ」
「うるさい」
「でも、慣れ親しんだ呼び方を変えるのって難しいんじゃないか?」
「だったら、察しろ」
「あ! 二人だけの呼び名があるとか」
「あったとしても、おまえに言うと思うか? 何だよ、にやにやするな」
「……」
「あ! もしかしておまえ、知ってるのか!」
「語るに落ちたな」
「もう帰れ!」
9 ゴルカイ 10/8/15
「いつまでも何やってるんだよ」
「ちょっとした訓練だ」
「訓練? 大口開けて唾撒き散らしてるようにしか見えない」
「口から魔法を放てないか、試しているところだ」
「……魔物じゃあるまいし、恰好よくない」
「手足の自由を奪われた事態を想定してみろ。口から出せれば――」
「何のピンチだよ、それ。無敵なんだろ」
「用心に越したことはない」
「『私に心配は無用』とか言ってたくせに」
「おまえを人質にとられ、私はやむなく囚われの身になったとしよう」
「俺のせいか」
「で、できそう?」
「なかなか骨だな」
「あきらめたら? 恰好悪いし」
「そんなに不恰好か」
「口から炎や氷を吐くんだろ……想像したら笑える」
「鼻はどうだ」
「……冗談だよな」
「だめか」
「それに、猿轡を咬ませられたらどうするんだよ」
「咬ませようとする奴にファイラを放ってやるから問題ない」
「『きさまあ! 人質の命が惜しくないのかっ!』ってなるだろ」
「……というわけで、これからは一人でうろうろするな」
「どういうわけだ!」
10 ギルとパロとカイン 10/8/16
「カインのあんちゃん!」
「何だ」
「『ゴルベーザ』って『虫』だったよな、確か」
「……何だ。いまさら」
「いや、いかにも悪そうな名まえだからさあ、それで呼んでもいいもんかなーって」
「……本人が気にしてないから、いいだろう。別に」
「あれ? 俺、気に障ること言った?」
「別に」
「なんか怒ってんだろー」
「怒ってない」
「怒ってるよ。なあ? この態度って」
「パロム。『虫』じゃないよ。『毒虫』だよ」
「ギルバート……あんたって……」