ブログで不定期連載していたとてもバカバカしいパロ童話。エロもありますのでご注意ください。
1 桃太郎 **
2 眠れる森の美女 *
3 シンデレラ *
4 赤ずきんちゃん
5 かぐや姫
6 浦島太郎
7 裸の王様
8 賢者の贈り物
1 桃太郎 <『桃△郎輪廻』 筒井○隆著より> 09/7/29
昔々あるところにゴルベーザという名の魔道士が独りで住んでいました。
ある日ゴルベーザが川で洗濯をしていると、川上からどんぶらこどんぶらこと「尻」が流れてきました。こんなところに尻が流れてくるなんて。ゴルベーザは尻を大事に抱えて家まで持ち帰りました。
このところとんとご無沙汰だったゴルベーザは、白く瑞々しい尻を見ていると昂奮が抑えれなくなり、つい犯してしまいました。なにしろ尻なので痛がることもなく慣らす手間も要りません。中の具合はこれまで経験したことのないほど素晴らしく、これはいいものが手に入った、とせっせと腰を動かしていましたが、久々なのであっという間に達してしまいました。
明日も使用するために中をきれいにしようと指を差し入れ掻き出そうとたところ、「やめて」とどこからか声が聞こえました。ゴルベーザはあたりをきょろきょろと見回しましたがもちろん誰もいません。空耳か、と気を取り直し、再び尻に手をかけたところ、もくもくとあたりに白煙が立ち込め始めました。
咳き込みながら煙を払い除けると、尻を置いたところに、この世のものとは思えないほど美しい金髪碧眼の青年が全裸で座り込んでいました。
「おまえは誰だ。どこから来た」
「ありがとうございます。あなたは命の恩人です」
いきなり礼を言われ、わけがわからずゴルベーザは首を傾げました。
「質問に答えろ」
「はい。あなたが拾ったのは私の尻です。私は北にある国の王子なのですが、悪い魔道士に呪いをかけられ、尻だけの姿にされてしまったのです」
青年は長い睫毛を震わせ俯き、頬をほんのりと朱に染めました。
「元の姿に戻るためには、尻に精を注がねばならなかったのです」
「なるほど、理解した」
「どうかお礼をさせてください。あなたが助けてくださらなければ、私は尻だけの姿のまま大洋へ流されていたことでしょう」
ゴルベーザは腕組みをして、縋るような目で見つめてくる美しい青年をじっと見下ろしました。
「名は何という」
「カインといいます」
ゴルベーザはカインの手を取り自分の両手で包み込みました。
「では、カイン。ずっと私の傍にいろ。それが礼の代わりだ」
「はい。よろこんで……」
こうしてゴルベーザとカインはいつまでもしあわせに暮らしました。
2 眠れる森の美女 09/8/7
昔々ある国の王子ゴルベーザは、百年間眠りつづけている姫がいるという噂を聞きつけ、荒れ果てた城を訪れました。茨を掻き分けようやく城の最上階の部屋に辿り着くと、そこに美しい姫君が眠りについていました。
「これは美しい……」
ゴルベーザは姫に口付けを落とそうとしましたが、直前でとどまりました。姫の顎にうっすらと髭が生えていたのです。毛深い姫君なのだな、と思いましたが、念には念を、と姫の装束を裾から捲り上げました。
「姫ではなく王子だったのか」
元来男女に頓着のないゴルベーザはさして気にするわけでなく、再び口付けようとしましたが、ついいつもの調子で唇で触れるよりも先に眠れる王子の股間をさわさわと弄り始めました。そうなるともう歯止めが利かず、ゴルベーザは口付けをすることも忘れ、王子が目覚めないのをよいことに、好き放題いろいろな体位で彼を犯してしまいました。
そのうち反応のない身体を抱くことに飽き、王子に口付けを落としました。
眠れる王子がゆっくりと目を開けます。長い金の髪に青い眸が映え、その美しさにゴルベーザの胸は高まります。
「ご機嫌はいかがかな」
ゴルベーザは王子にやさしく声をかけました。王子は長い睫毛を何度も瞬かせていましたが、自分が全裸であること、四肢のあちこちと、何より尻の奥の痛みに眉をしかめました。
「こ、これは・……き、きさまの仕業か!」
王子が繰り出した素早いパンチが見事ゴルベーザの顔面に当たり、彼は吹っ飛んでしまいました。
「あ……寝起きの俺のへなちょこパンチなんて絶対避けられると思ったのに……大丈夫か」
「いや。とても寝起きとは思えない威力だった……」
ゴルベーザは鼻血を押さえながら、王子の傍に寄り跪きました。美しいだけでなく、気の強い、でも素直な心根の王子にゴルベーザの胸はさらにときめきます。
「眠っている間に働いたこの狼藉、何発殴られても致し方ないこと」
「と、当然だ……」
「だが百年が経ち、そなたは既に寄る辺ない身。頼れる者は呪いを解いた私だけのはず」
「ひとの弱味に漬けこみやがって……」
ゴルベーザは、恨めしそうに睨んでくる王子の手を取りました。
「責任は取る。結婚してくれ」
「……仕方ないな。俺の名はカイン」
カインも細かいことには拘らない気質だったので、あっさりと求婚を受け入れました。
こうしてゴルベーザはカインの尻に敷かれながらも、いつまでもしあわせに暮らしました。
3 シンデレラ 10/7/6,11,13,17
昔々あるところにカインというそれは美しい青年がいました。カインは継母とその連れ子である兄たちに毎日いじめられていました。
ある日、城で盛大な仮装舞踏会が開かれ、カインの兄たちも思い思いの仮装に扮し浮き足立って出かけて行きました。カインも舞踏会へ行きたいと思いましたが、着ていく服がありません。
分不相応な願いだとあきらめ、部屋の掃除に取り掛かったカインの前に突然魔法使いが現れました。魔法使いはカインの願いを叶えるため、不思議な魔法を唱えました。
「こ、これは……まるで竜のようだ」
竜を模した兜と甲冑はカインの美しさをよりいっそう際立たせます。
「だが忘れるでないぞ。12時になると魔法が解ける。必ずそれまでに帰ってくるのじゃ」
魔法使いと約束し、かぼちゃの馬車に乗り、カインは城へと向かいました。
カインが到着したとき、目も眩むような豪華な城の大広間は既に酒池肉林の乱痴気騒ぎの間となっていました。あまりの光景に呆気に取られ、居心地の悪さに視線を彷徨わせていたカインは、ひと際高い壇上で豪奢な椅子に腰掛けている、野性味溢れる扮装の、銀の髪の王子と目が合いました。王子が手招きをします。カインはふらふらと誘われるように壇上を登っていきました。
王子はカインの頬を撫で、膝の上に乗せました。しっとりと口付けられ、あっという間に下半身の鎧を剥ぎ取られ愛撫を受け、カインは夢心地で王子と情を交わしました。
昨夜の舞踏会で名も告げずに去った青年に心を奪われた王子が人捜しをしているらしいとの噂が町中を駆け巡り、カインの家にも王子の従者たちがやって来ました。従者が告げるには、かの青年の持ち物は極上だったので挿入すればすぐにわかる、と王子自ら町中の若い男を確かめて回っているとのことでした。
程なく王子が訪れ、兄たちは王子にいそいそと尻を差し出しました。しかし王子は、挿入するまでもなく、一瞥して「違う」と兄たちの尻を蹴飛ばしました。
「他に息子はおらぬのか」
「ございません」
「いるではないか。あそこに」
王子は庭で落ち葉掃きをしていたカインを目に留めました。
「滅相もございません。あれは卑しい者です。舞踏会には行っておりません」
「かまわぬ。連れて来い」
わけのわからないまま客間に連れて来られて戸惑うばかりのカインに、従者が「王子の面前である」と告げました。カインは咄嗟に頭を下げ跪きました。王子が近寄り、カインの顎先を掴み、顔を上げさせます。
「これは美しい」
カインも昨夜の交合を思い出し、頬を朱に染め目を潤ませます。
「さて、確かめさせてもらうとしよう。尻を向けろ」
衆人環視の中で尻を出すことに抵抗はありましたが、カインは羞恥に耐え、四つん這いになりました。
「やはりそなたであったか」
カインの中に突き入れた王子は、感慨深げに言いました。
王子が視線だけで合図を伝えると、従者は継母たちを部屋から追い出し自分たちも去り、客間には王子とカイン二人きりになりました。
「さて、これでそなたも存分に乱れることができよう」
捜したぞ、と王子はカインの顎を掬い取り深く口付けました。
「わ、私のような者を求めてくださるなんて、未だ魔法にかかっているかのようです……」
息も絶え絶えのカインに、王子はやさしく微笑みました。
「名は?」
「カインです」
「魔法などではない。カイン、おまえは私と共に生きるのだ」
「はい……」
そうして王子はカインを城へ連れ帰り、二人はしあわせに暮らしました。
4 赤ずきんちゃん 10/7/23,27
カインたんは竜の兜がよく似合う美しい青年です。
ある日カインたんはお菓子を持って、森の向こうに住むおばあさんの家へお見舞いに出かけました。途中でカインたんは、お母さんの言いつけを守らず、森で跳んだり跳ねたり道草を食って遊んでいました。それを見ていた悪い狼ゴルベーザは、カインたんを食ってやろうと画策し、おばあさんの家へ先回りしました。
<中略>
「おまえを食べるためだ!」
狼はカインたんを丸飲みしようとしましたが、竜の兜が脱げ落ち、露わになったカインたんの素顔に驚きました。好みのタイプど真ん中だったのです。食べてしまうのは惜しいということで、狼はカインたんをそのまま手篭めにしてしまいました。
家の外にも響き渡るいびきを聞きつけ、セシルという若い猟師がやって来ました。
「あ! これは狼! こんなところにいたのか!」
猟師は銃を構えましたが、狼の隣で美しい青年がすやすやと寝息を立てていることに気づき、慌てて叫びました。
「お、おい! そこの君! 危ないから退きなさい!」
「……うるさいなあ。なんだ、おまえ」
寝惚け眼のカインたんが不機嫌そうに身体を起こしました。
「あー、猟師か。こいつ、もう悪いことはしないって。だから撃たないでやってくれ」
「き、君は惑わされてる。こいつは悪い狼で、これまで――」
「うるさいぞ。俺がいいって言ってるんだ。おまえに用は無い。出て行ってくれ」
「えー……」
猟師は首を傾げながらもすごすごと出て行きました。
彼が去って、カインたんはたいせつなことを思い出し、隣で熟睡している狼を揺り起こしました。
「俺のおばあさんはどこだ? 食ったのか?」
「……ババアなど食えるか」
寝惚け眼の狼は何やら呪文を唱えました。すると空間が歪み、ぽっかりと開いた次元のはざまにおばあさんが倒れていました。
「おばあさん!」
カインたんはおばあさんに駆け寄り抱き起こしました。
「お菓子を持ってきたよ。食べる?」
「おお、カインたん。どうしたんじゃ、裸で。ひぃー! 狼!」
おばあさんは狼を見て悲鳴を上げました。
「大丈夫。もう悪いことはしないって。意外といい奴だよ。すごく巧いし」
「カ、カインたん……おまえ、騙されと――」
「俺たちここに住むから。いいだろ? 部屋、余ってるし」
「先ほどは失礼しました。お世話になります」
「えー……」
深く頭を下げた礼儀正しい狼の姿は、本当に改心したようにみえました。おばあさんは、かわいい孫の頼みなら仕方ない、と同居を承諾しました。
こうしてカインたんはおばあさんの家で狼と仲良く暮らしました。
5 かぐや姫 10/9/14,15,23
昔々竹取翁という男がいました。ある日翁が竹林へ出掛けたところ、光り輝く竹を見つけました。不思議に思って近づき竹を割ってみると、中にそれはかわいらしい小さな子どもがいました。翁は嫗(おうな)と共にそれを自分たちの子どもとして育てることにしました。
翁が見つけた子どもはぐんぐん大きくなり、あっという間に成人してしまいました。美しく成長した子どもに老夫婦は「かぐや」と名づけました。
かぐやの美しさは都でも評判になり、貴人が次々と求婚に訪れました。しかし、どんなに高価な貢物を前にしてもかぐやは首を縦に振りませんでした。
その頑固さに呆れ、翁たちが途方に暮れていたところに、一人の青年がやって来ました。
「カインと申します。私は一介の竜騎士ですが、こちらの姫の美しさを伝え聞き、ぜひ賜りたいと馳せ参じました」
老夫婦は、この物腰の落ち着いた見目麗しい金髪碧眼の青年をひと目見て気に入りましたが、どうせ今度もだめだろう、と肩を落としました。
「申し訳ありませんが、誰にも会いたくないと言っ――ち、ちょっと待ってくだされ」
翁は御簾の向こうに引っ込み、再び慌てた様子で出てきました。
「あ、会うと言うております! こんなこと、あなたが初めてございます!」
昂奮した様子の翁のあとに続いて、カインも期待に胸を膨らませ御簾をくぐりました。
「うわああああ!」
程なく御簾の中から叫び声がしました。
「お、翁どの! 翁どの! おい、 じいさん! じじい!」
「何ですか。大きな声で」
カインがあたふたと御簾から這い出て来ました。
「こ、これは男じゃないか!」
「それが何か」
「『何か』だと! かぐや姫と言うからには女だろう!」
「違いますよ。かぐやひ……こです」
「『こ』が小さい!」
何と、美しいと評判のかぐや姫とは筋骨隆々の逞しい男性だったのです。老夫婦は一度たりとも肯定しませんでしたが、世間が勝手に勘違いをして「美しい姫がいるらしい」と噂を立て評判にしたのでした。
「ゴルベーザも、あ、息子の通り名です。これもあなたを気に入ったようですし、ぜひとも嫁に来てやってください」
「話が違う!」
「何をごちゃごちゃ言っておるのだ。さっさと来い」
御簾の中からにゅっと逞しい腕が伸びてカインの脚を掴み、低い声が響きます。
「ゴルベーザや。あまり無茶をせんように」
「心得ております、父上」
「た、たすけてくれええ!」
最初は嫌がっていたカインも、巧みな性技に翻弄され、耳許で愛の言葉を囁かれるうちに、身も心も解け、三度目には自分から求めるほどにまで悦楽に身を委ねていきました。
三日三晩愛し合ったのち、ゴルベーザとカインは揃って養い親の前で膝を正し頭を下げました。
「父上、母上。これまで慈しみ育てていただきまして誠にありがとうございます」
「これ息子や、堅苦しい。嫁をもろうても親子の縁は変わらんぞよ」
「いえ、実は私はこの星の者でなく月の民なのです。月に帰らなければなりません」
「何と!」
翁と嫗は満ちた月を見上げました。奇妙な形をした船が何隻もこちらに向かって来ています。迎えが来たのだと二人は悟りました。
「おまえさんはそれでいいのかの?」
「はい……どこまでもついていきます」
カインは頬を染めて頷き、隣のゴルベーザと微笑み合いました。二人の様子に老夫婦は目を細めます。
「息子や。どこにいてもおまえたちのしあわせを祈っておるぞ」
「元気での。嫁と仲良くのう」
「父上、母上……」
こうして伴侶を得たゴルベーザは月へ帰って行きました。
6 浦島太郎 10/9/26,10/5,11
カインという竜騎士が浜辺を歩いていると、子どもたちが亀をいじめているところに出くわしました。さらに近づいてみると、亀だと思ったものは大きな男だとわかりました。
「履いてんのかよ!」
「やーい、パンツ見せろー!」
大の男が何故されるがままなのだろうと首を傾げながらも、カインは彼らにいじめをやめるように言いました。しかし子どもらは聞く耳を持ちません。仕方なく手持ちの小銭を渡すと、彼らはようやく男をいじめることをやめ、去って行きました。
「大丈夫か」
「すまん。助かったぞ。機を逸して困っていたところだった」
男は立ち上がり砂を払い落としながら、だが、と言葉を続けました。
「あまり関心せんやり方だ。愚かな子どもは小銭欲しさに同じことを繰り返すだろう」
「……」
助けられたくせに何て横柄な奴だろう、とカインは顔をしかめ、申し訳程度の黒い布を纏っただけの大きな男を見上げました。彼の言うことも一理あるので何も応えず「海水浴でもしていたのだろうがこの姿ではいじめられてもしかたない」と密かに思いました。
「なんでいじめられてたんだ? そんなでかいくせに」
「弟を訪ねて来たのだが、降りる浜を誤り迷ってしまい、腹が減り、倒れてしまった」
「降りる?」
カインの問いに応えず、男は、虫に刺されたほどにしか思わんかったが、と付け足しました。確かに、子どもが殴る蹴るしたところでこたえる身体でもなさそうだ、とカインも納得し、助けてやることもなかったな、と小さなため息をつきました。
「礼に、月へ連れて行ってやろう」
「え? 月? 月ってあの月か?」
「竜宮城もあるぞ」
「竜……」
唐突な誘いに驚きましたが、竜が棲む城となると話は別です。カインは興味を示し男と一緒に月へ行くことにしました。
「ここが竜宮城だ」
「……ただの洞窟じゃないか」
騙されたのだろうか、とカインが険しい顔をしても、男は素知らぬふりで歩みを進めました。
「あれが乙姫、ここでは幻獣神という」
男が指差した先には、人間とも魔物とも思えぬ者が厳かな空気を纏い玉座に腰掛けていました。
幻獣神がカインに笑顔を向けます。
「ようこそ、月の世界へ」
「……竜宮城じゃないのか」
幻獣神はふぉっふぉと笑い声を上げました。
「ゴルベーザめ、しょうのない奴だ」
やっぱり騙された、とカインはゴルベーザと呼ばれた男を睨みましたが、幻獣神はカインを宥めるように言いました。
「だがカインよ。あながち嘘ではないぞ」
「え、俺の名を……」
眩い光があたりを包んだかと思うと、目前に翼を拡げた巨大な竜が現れました。
「バ、バハムート!」
カインは腰を抜かさんばかりに驚きました。幻獣神の正体は最強と崇められる幻獣だったのです。
「月の民ゴルベーザが世話になったそうだな。心ばかりのもてなしをしよう。楽しんでいきなさい」
「は、はい!」
いつの間にやら酒や馳走が用意され、兎に似た奇妙な生き物が舞い踊ります。神々しい竜に見守られ、ゴルベーザから酌を受け、趣向を凝らした酒宴をカインは存分に楽しみました。
すっかり酔いつぶれ何日も楽しいときを過ごしていたカインでしたが、急に青き星が恋しくなりました。帰りたい、とゴルベーザに訴えても、何故か聞き入れてくれません。
困ったカインは幻獣神に申し出ました。
「承知した。ゴルベーザには私から言い聞かせておこう」
カインはよろこび、礼を言い、幻獣神にもらった土産の玉手箱を抱え、魔導船に乗り込みました。
魔導船の中でゴルベーザは気を悪くしているのか、ほとんど何も喋りません。せっかく知り合えたのだから今後も友好を深めたいと思っていたカインの胸が不安でざわつきます。
青き星に到着し、二人が出会った浜辺に降り立っても何も言わないゴルベーザに、カインは焦れて言いました。
「あ、あの……」
「私が背中を向けたら、その箱を開けてみろ」
「え? 幻獣神は『決して開けてはならぬ』と言ったぞ」
「考えてみろ。開けてはいけないものを土産に持たせるか?」
「……ありえないよな、普通」
ゴルベーザは踵を返し魔導船に向けて歩き出しました。握手どころか言葉さえない別れにカインは肩を落としましたが、気を取り直し、箱を開けました。
もくもくと白煙が立ち込めます。げほげほと咳き込みながら煙を払いのけ、カインは箱の中を覗き込みました。
「ん? 何も入ってない……」
幻獣神もとんだ悪戯者だな、とカインは苦笑いを浮かべましたが、箱の底に映った自分の姿を見て大きな声を上げました。
「な、な、何だ!」
カインは自分の顔や頭をバシバシと叩きましたが、竜を象った兜はどこにもありません。腕も腹も竜の甲冑に覆われておらず、身を纏うのは申し訳程度の藍色の布だけでした。
「ど、どういうことだ!」
カインは声を張り上げながら猛然と、いままさに魔導船に乗り込もうとしているゴルベーザの許へ駆け出しました。
振り返ったゴルベーザがにやりと微笑みます。
「幻獣神が術を解かねば、ずっとそのままだ」
「あ、あんたじゃあるまいし、こんな恰好でいられるか!」
「となると、月で暮らすしかないがどうする」
ゴルベーザが腕を大きく広げます。カインは頬を紅く染め、照れ隠しにさらに大きな声で叫びました。
「ば、ばか野郎! まわりくどいんだよ!」
さんざん悪態をつきながら、カインは彼の広い胸の中に飛び込み、二人はしっかりと抱き合いました。
魔導船の中で、実は術者はゴルベーザ本人だったと打ち明けられてもカインは怒る気にならず、それよりも大事なことがあるだろう、と月まで旅の間、とろけるようなときを過ごしました。
7 裸の王様 10/10/24
昔ある国にゴルベーザという王様がいました。ゴルベーザはりっぱな王様でしたがたいへんな着道楽で、次から次へと新しい衣装をこしらえていました。
そんなある日、詐欺師の男が仕立て屋を騙って城を訪れました。
<中略>
家臣だけでなくパレードの見物人たちも、馬鹿だと思われたくないため、ゴルベーザの見えない衣装を褒め称えます。
そんな中、ある若い男が声を上げました。
「なんだ? 国王陛下は裸じゃないか」
ついに皆も「王様は裸だ!」と叫び始めました。
群集が騒ぐ中、ゴルベーザは家臣に命じ、若い男を捕らえさせました。
「名は?」
「カインと言います」
「カインよ。おまえは私が裸だと申すのか」
「いえ。厳密には、申し訳程度の布だけ、と申し上げたほうがよろしいかと」
「……おもしろい奴だ」
ゴルベーザはカインを城へ連れ帰りました。ゴルベーザはこの美しい青年を気に入り、彼の話をじっくりと聞いてやりました。そしてようやく自分が騙されていたことに気づき、家臣の誰も進言することができないほど自分が威圧的で独裁的だったことを省みました。
ゴルベーザはカインに重々しく言いました。
「人前で恥をかかせた罰を受けてもらわねばならん」
「はい……覚悟致しております」
「生涯私につき従え。それがおまえの罰だ」
「は、はい! 謹んで、いえ、よろこんでお受けいたします」
ゴルベーザがカインを抱き寄せると、カインもおとなしく身体を預けました。
こうしてゴルベーザはカインを第一の家臣とし、片時も放すことはありませんでした。
8 賢者の贈り物 10/12/19,20,22,24
ある町にゴルベーザとカインという夫婦が暮らしていました。ゴルベーザは人に遣われることが嫌いで仕事が長続きせず暮らしは厳しいものでしたが夫婦仲はとても良く、二人は深く愛し合っていました。
明日はクリスマス。
時計屋の前を通りかかったカインは、ショーウィンドウに立派な金の鎖が飾られているのを目にしました。この鎖なら、ゴルベーザがその父から譲り受け、大切にしている懐中時計にぴったりに合う違いない。カインはこれを贈り物にしたいと思いましたが、手持ちのお金が足りません。
悩んだ末、カインはある決意をしました。
一方ゴルベーザも雑貨屋の前で悩んでいました。いつの日かカインが欲しがっていた見事なべっ甲の櫛が飾られています。この櫛で梳いてやると、カインの美しい髪はさらに輝きを増すだろうと思いましたが、高価な櫛は手の届く値段ではありません。
彼は悩んだ末、懐に手を入れ父の形見でもある懐中時計を握り締め、意を決しました。
聖夜のせめてものお祝いにとカインがささやかな料理を用意しているところに、ゴルベーザが帰ってきました。夫の姿を戸口で見るなり、カインは凍りつきました。
「ど、どうしたんだ。その恰好……」
この寒い中、申し訳程度の布だけを身に纏ったゴルベーザが、小さな包みを差し出しました。
「これをおまえに買ってやりたくて」
驚きと呆気に取られ口をぽかんと開けたままカインは包みを受け取り、それをビリビリと破り始めました。
「あ! 俺が欲しがってたやつ……高いのに……」
でもどうやって、とカインは首を傾げ、ゴルベーザを見上げました。
「金が足りなかったので、着ているものを売った」
「えええ! それでこれが?!」
訊けば、雑貨屋の店主はたいそう大柄で着る物にいつも頭を悩ませていたので、店を訪れたゴルベーザの姿を見るなり彼の服装を気に入り高値で買い取ってくれた、と言うのです。
カインはわずかに眉を顰めました。たいした服じゃなかったのに脅したりしてないだろうな……
疑う気持ちがまったくないわけではありませんでしたが、それを口にしてせっかくの夫の心遣いを無にするほどカインは愚かではありませんでした。
「気に入ったか」
満面の笑みで大きく頷いて、カインはよろこびのあまりゴルベーザの首にしがみつきました。
しっかりと抱き合った後ゴルベーザは抱擁を解き、髪を梳いてやろう、とカインを椅子に座らせました。カインは頬を紅潮させたまま「その前に」と小さな箱をゴルベーザに差し出しました。
「俺もプレゼントがあるんだ」
「ほう……」
ゴルベーザが箱の包みを丁寧に開けると、そこには金の鎖が収められていました。
「これは……」
「大事な時計なんだ。これで落としにくくなったろ」
振り向いた笑顔は眩しいほどに美しくいとおしくて、ゴルベーザはカインを背後からしっかりと抱き締め、頬にこめかみに口付けました。
「しかし、どうやって。高かっただろうに」
「売れるものなんて髪ぐらいしか思いつかなくて、床屋に行ったんだ。そうしたら、話を聞いていた客の一人が『そんな美しい髪を切る必要はない。うちの店で働けば、君なら半日で稼げる』って言われて……」
「なんだと……」
それは常々ゴルベーザが危惧していることでした。類稀な美貌を持つカインには誘惑が多く、人妻と知っていて求婚してくる者は後を絶ちませんでしたし、金儲けを企んで声をかけてくる輩も数多くいました。
「それでどうしたのだ」
「そこで半日働いた」
「どんな仕事だ? まさか……」
青ざめる夫を見て、カインは彼の手を握り「たいしたことない」と応えました。
「カフェの給仕だ。笑顔を作るのに顔が強張ってたいへんだったけど、チップをたくさんもらえたから悪くなかった」
「……普通の給仕か」
「……」
カインは渋々といった様子で応えました。
「……そう」
「はっきり言いなさい」
「じ、じょ……女装して……」
「な、なんだと! 私以外の奴にそんな恰好を見せたのか!」
「これっきりだから……」
女装した妻の姿を思い浮かべるだけで昂奮してつい大きな声を出してしまいましたが、カインがひとえに自分を想ってくれてのことなのだからと思い直し「ありがとう」と彼の頭を撫で額にやさしく口付けました。
カインもほっとしたように息をつきます。
「ときに、女装とは儲かるものだな」
「無理。雇ってもらえないから。そんな図体」
「……」
「あ、降ってきた」
「冷えるはずだ」
「そんな恰好してるからだ」
「……そうだったな。では、あたた――」
「早く何か着て、先に飯。お楽しみはそれから」
「……はい」
苦りきった顔で返事をしたゴルベーザに、カインは笑顔で言いました。
「メリークリスマス。俺、しあわせだよ」
「……」
苦労をかけているのに、迷いのない笑顔がいじらしくて、ゴルベーザは、来年こそしっかり働こうと金の鎖に誓い、妻にやさしく微笑みました。
「メリークリスマス。愛しているよ」