ドアの閉じる音で目を覚まし、我に返る
主が部屋を出て行くとき、いつも眠っているのが恨めしい
どんなにこらえても、瞼が重くなり、まどろみに抗えない
それはおまえが術中にあるからだ、とルビカンテは言っていた
それならそれでかまわないけれど
一人寝には広すぎるベッド、皺の寄ったシーツ
シーツには一人分のぬくもりだけ
隣に広く空いた場所に頬を寄せてみる
黒い金属の粉が点々と散らばっているのがよく見えた
指先で粉を集めながら、膝を抱え寄せ丸くなる
小さな小さな粉の山を、ふうと一息で吹き飛ばした
それならそれでかまわない、それでもかまわない
頬に伝わる布の温度は冷たいままだったけれど
まだ熱の残る身体のどこよりも、胸が熱く苦しかった
ごく緩く拳を握り、両の手首の内側を上に向けた寝姿は
腹を見せて恭順を装う動物のようだ
何もかも預けて眠るその姿は歳よりも幼く見える
拳の中に指を差し入れてみる
反射的に握り返してきたので、慌てて引き抜く
緩く開かれた形のよい唇にそっと触れてみる
ん、と微かな声を上げて身じろいだので、指を離した
すうすうと規則的な寝息
結ばれた口がきゅっと上がり、微かな笑みをたたえる
しあわせな夢を見ているのだろうか
しあわせならばそれでいい
おまえがしあわせならばそれでいい
08/03/29〜08/05/06