セシルはたびたび苦労する

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 小人と豚とカエルに囲まれてセシルは途方にくれていた。彼らを元に戻すことのできるローザは戦闘で集中攻撃の的にされ、やっとの思いで逃げ出したあと、ばったり倒れてしまったし、自分もMPを使い果たしてしまっていた。命からがらたどり着いた村で宿を取り、彼女をベッドに寝かせた。このまま安静にしていれば、明日の朝には元気な姿を見せてくれるだろう。
 問題はこの三人だ。ちょっと目を離すとリディアはぴょんぴょん跳ね回り物陰に隠れて出てこないし、エッジはブーブー鼻を鳴らし続けてうるさいことこの上ない。唯一会話のできるカインは、小さくなったために通りにくくなった声で何やらピーピー叫びながら、金串のような槍でセシルの足を突付いている。
 カインの訴えを聴き取るために、セシルはしゃがみこんで小さなカインを掌に乗せ、耳を寄せた。
「早く買ってきてくれって!」
 いつもの少し掠れた低い声ではなくヘリウムガスを吸ったような甲高い声に、セシルは思わず笑ってしまった。
「痛っ!」
 小さな槍で突付かれた頬を、セシルは大げさに撫でた。
「なんて乱暴な小人なんだ!」
「うるさい! イライラしてるんだ。早く買ってこいって」
 足許では紫の豚が何度も体当たりしてくるし、緑のカエルは、よせばいいのに、また鏡を覗き込んで泣いている。状態異常を治すアイテムはとっくに使い果たしており、新たに買おうにも、この村の道具屋はそれらを扱っておらず、売り物の中で唯一役に立つアイテムは高価な万能薬のみだった。堅実なセシルは迷った結果、一晩我慢してくれ、と万能薬の購入をあきらめたので、三人から盛大なブーイングを受けていた。
「だって、朝になればローザに治してもらえるんだから、もったいないじゃないか」
「自分が無事だったからってそういうこと言うか」
 また頬への攻撃を受けそうだったから、セシルは暴れるカインを机の上に降ろし、ピーピー叫ぶ彼を尻目に、カエルが覗き込んでいた手鏡を取り上げた。鏡に縋って手首の上に跳んできたカエルの頭をそっと撫でてやる。
「明日になったらローザに治してもらおうね。鏡なんか見ずに目を閉じて夢を見れば、元通りになっているよ」
 緑のカエルは前足を両目に当てて泣き崩れんばかりだったが、セシルの言葉にうんうんと頷いた。セシルはカエルを空いた方のベッドの上にそっと置いた。
「おやすみ、リディア」
 おとなしくなったカエルの背をすーっと指で撫でてセシルはベッドを離れようとしたが、豚がベッドによじ登ろうとしているのに気づき、慌てて豚の襟首を掴んでベッドから引き剥がした。
「豚とカエルだからって、同じベッドに寝ていいはずないだろっ!」
 紫の豚がまたブーブー鳴きながらセシルに体当たりし始める。ガサガサという音に、豚の攻撃をいなしながら机を振り返ると、その上に置いた道具袋が、くねくねとひとりでに動き回っていた。セシルは嘆息しながら袋の中に手を突っ込み、小人の襟首を掴んで引っ張り出した。
「おいっ! 猫みたいに持つな!」
 カインが手足を宙にばたつかせ暴れる。
「……何やってるんだよ」
「あるんだろ? 万能薬」
「あっても、ないっ!」
 小人を再び机の上に置いて、セシルは道具袋の口を縛り肩に担いだ。
「さあ、いつまでも女の子の部屋にいないで、戻ろう」
 セシルが豚を従えて部屋に戻ろうとすると、机の上からピーピーと小人が叫び出した。カインのことをうっかり忘れていたセシルが机に寄ると、小さなカインは両腕を前に差し出してきた。その姿はまるで、小さな子どもが母親にだっこをせがむようだったので、セシルは微笑ましくてまた笑いそうになったけれど、何度も頬を突付かれてはそのうち血が出るケガになりそうで、俯いて必死で笑いを堪えた。
「ごめん。降りれない高さだった?」
「疲れた。小人でいるのも結構体力消耗するぜ」
 掌を差し出すと、カインは両足を揃えて、とんっと掌の上に勢いよく飛び乗った。小さくなると仕種も可愛くなるんだな、とカインが聞けばまた突付かれそうなことを考えながら、セシルは、自分たちの部屋へ戻った。

 ブーブーピーピーの喧騒は空が白むまで続き、翌朝全快したローザは、疲労困憊したセシルにまで回復魔法をかけなければならなかった。








2008/02/24

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