イン・ベッド・ウィズ・ヒム

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 カインは行為の間声を出さない。
 こういう仲になって間もない頃はそれを不思議に思い理由を尋ねてみたが、ただ、カッコ悪いから、と答えるだけだった。
 感じていることを相手に伝える最も普遍的な手段で、それを聞くことで自分もさらに昂ぶるものだし、「伝える」以前にそうせざるをえない衝動から起こる自然な反応で、そこに男女の差異は無いものと思っていたセシルは、自分のやり方のまずさ故に嬌声を引き出すことができないのではとも思いあれこれと試してみたけれど、結果は同じだったので、いつしかそれもあきらめた。
 あきらめたというよりも、新たな喜びを見出したからというのが正解で、それは、声を上げまいと必死に唇を噛み締めるさまを眺めることだったり、鼻の奥から漏れる甘い喘ぎに耳を傾けることだったり、耳許をかすめる熱い吐息を感じることだったりする。
 声を出さずとも、しっとりと汗ばんでくる肌、大きく上下する胸板、顕著な反応を示す同じ雄の証、それらが教えてくれる。
 自分の手が指が唇が舌が繋がっているものが確かに彼に与えているのだと。
 身体の下でカインが身を捩り、噛み締めていたシーツの端から口を離した。

 彼の笑顔を見ることはなにものにも代えがたいが、今この瞬間の顔も捨てがたい。
 誰もが焦がれる美しい笑顔が自分だけに向けられるしあわせ、誰も垣間見ることさえできない官能も顕な顔をいま独占できるしあわせ。
 二者択一を迫られたわけでもないのに逡巡してみせるのは、不本意ながら、早くも達してしまいそうになるのをやりすごすため。
 動きを止めてしまうと、訝ったカインがきっと憎まれ口をたたく。
 それはそれで微笑ましく愛しかったが、今の優先事項は、言葉を口にすることもできない彼の顔を眺めることだったので、セシルはゆっくりとした動きに徐々にスライドさせていった。

 セシルの努力もむなしく、カインが長い睫を震わせゆっくりと目を開ける。
 焦点の合わない空ろな目をさまよわせ、緩く開いた口からは言葉が洩れることはなく、両腕をまっすぐに伸ばしてくるから、首に腕を回せるように身体を寄せてやると、当然のように、唇に吸い付いてきた。
 唾液を交換するようなキスは、呼吸が困難になるぎりぎりまで、根競べのように互いに譲らなくて、セシルは、やっとの思いで舌を離すと、大きく息をついてから、顔中にキスの雨を降らせ、カインの口から笑みがこぼれ口を横に開けたのを見計らって、大きく動いた。
「あ……っ」
 慌てて下唇を噛み、顔を横に背けたところを、耳たぶを軽く噛み、首筋を唇でなぞり、反った白い喉に吸い付く。
 思い直して、紅い痕は、髪をかきあげた耳の後に残すことにした。







2008/04/06
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